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ミャンマー……クーデター後半年が経過

 

クーデターが21日に突然起きてから6カ月以上経った。それ以前の約1年間、他のASEAN諸国と同様にコロナ禍で困難に直面してはいたが、それでも世界銀行が年初に公表した「世界経済見通し2021」で、ミャンマーは2020年の成長率が+1.7%21+2.0%22+8%と予測され、域内での優等生ぶりは穎著だった。しかし、3月末には21年の予想成長率が-10%と修正され、その後7月末には、医療機関の機能不全という状況の中でのデルタ株感染者数と死者の急増という状況も加わり、-18%に再度下方修正されたのだ。

 

世銀によれば、ミャンマーでは今後約100万人失業する恐れがあり、11. 9ドル未満で暮らす人の割合を示す貧困率は、来年初め、2019年比で2倍以上になるという。また、通貨(チャット)の対USドル参考レー トが管理フロート制に移行されてしまったことで、 二重相場と米ドル不足から悔外との取引に深刻な影響が及びそうだ。

 

国家統治評議会(SAC)は、81日暫定政府を発足させ、 国軍最高司令官が首相に就任すると発表した。しかし、 ミャンマ一国軍はクーデター以降市民に対し武力による弾圧を続け、計940人の市民が殺害され現在も約5500人が身柄を拘束されている。 国際社会からの経済制裁や圧力も各国の思惑の違いから効果はなく、今後、孤立化と停滞の道に突き進んでいくことが危惧されている。市民生活はやや落ち着いてきたとの報道もあるが、ヤンゴンなどの大都市では爆弾事件が頻発し、地方では国軍と反対派との間で戦闘が頻繁に起き、Civil Warが始まったとさえ言われている。

 

ところでミャンマーは、民主化が順調に進み、東南アジアでもっともポテンシャルの高い国の1つとされてきた。進出日系企業は私の小さな会社も含め400(ミャンマー日本商工会議所会員数)を超え、ミャンマー初の経済特区として日緬両政府が開発を進めてきたティラワ工業団地(総開発面積2400ha)には100社以上が進出している。大企業はもちろん中小ベンチャーも含め、将来の可能性に向け巨額の投資が実行されてきているのだ。

 

ところが、現在の状況の下、外賓系企業であれば意思決定プロセスの一環としての「人権デューデリジェンス」の実施が不可欠になってきた。短中期的に明るい未来を描けない中で、新規投資は急速に萎んできているが、既存プロジェクトの継続・縮小・撤退等について、多くの企業は差し迫った意思決定が必要とされている。その際、現実の資産価値を把握することが全体の判断に当たっての要素の1つとなることから、評価へのニーズが高まっているということが言える。

 

評価人の端くれとして評価の本来的な役割を考えると、「現在と将来の動向を的確に読み取り、咀喘し、判断し、予測し、適正に価格を示すことで、様々なリスク・リターンに対する意思決定に寄与する。」ということにつきる。市場がほとんど機能していない中で、その代弁者となることが鑑定士には求められるのだ。 現在のミャンマーでの業務に対し、襟を正しより一層緊張感をもって取り組む必要性を痛感しているところだ。 

 

磯部 裕幸

日本ヴァリュアーズ株式会社相談役 不動産鑑定士、CREFRIGS

不動産経済ファンドレビュー 2021.9.05掲載