百貨店の存在意義
自宅最寄りの百貨店は、全国区ではないローカルな百貨店でした。家族で買い物に行った際、レストランフロアの瀟洒な洋食店で食事をしたのは、幼少期の良き思い出の一つです。その百貨店が数年前に閉店してしまった際には、言い知れない寂寥感を覚えました。
かつて百貨店は、全国の県庁所在地は言うまでもなく、人口数十万人程度の都市にも立地していました。百貨店にはそこでしか買えない商品があり、ちょっと高価なレストランがあり、特別な日に訪れるべき非日常感がありました。しかし、百貨店と同程度の商品を販売する郊外型ショッピングモールが増加し、インターネットでの通販が台頭した昨今、特に人口減が続く地方都市においては、閉店が相次いでいます。コロナ禍の影響もあり、2020年以降30店舗以上が閉店し、これにより、山形県、徳島県、島根県においては、百貨店がゼロになってしまいました。一方、大都市の一部百貨店では、近年売上高が過去最高となっています。これは、富裕層向けビジネスの強化や、不動産業態へのシフトなど、消費環境の変化に合わせたモデルチェンジが功奏した結果だそうです。言い換えれば、地方百貨店は、急速な環境変化に対応しきれず、ビジネスモデルが陳腐化してしまっているという可能性が指摘されます。
苦境が強いられている百貨店ですが、フロアの一部を都市型水族館にしたり、図書館や公共施設にしたり、生き残りをかけて改革を進めている店舗も多々あります。百貨店の多くは街の一等地に立地し、閉店すれば、中心街の空洞化を招きかねません。百貨店は街の顔であり、そこでの思い出が人生の一部となっている方も少なくはないと思います。ただの商業施設ではなく、地域ぐるみで再生の道を探るべき存在なのではないでしょうか。(祐紀)