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移り変わる屋上

先日、昭和後期に書かれた小説を読んでいたら、主人公が友人と百貨店の屋上遊園地で会話する描写が出てきました。若干色褪せた感じの遊具や、疎らな来場者の倦怠感等、都市部のエアーポケット的な情景がふと頭に浮かび、とても懐かしい気持ちになりました。同時に、近年は屋上遊園地という言葉をめっきり聞かなくなったことに気づきました。筆者の記憶の中でさえ既に寂れていた屋上遊園地、今、そのマーケットはどうなっているのでしょうか。

屋上遊園地の歴史を見ると、はじまりは1900年代初頭とされ、1950年台~60年代に最盛期を迎えています。最盛期の屋上遊園地には、全国各地に大型の観覧車やゴンドラ等が設置され、日本橋高島屋の屋上には象までいたそうです。しかしながら、1970年代に入り、相次いでデパートの火災が起こってしまいました。これにより消防法の規制が厳しくなり、屋上面積の半分を避難区域として確保することが義務付けられる等、大型遊具を置くことが困難となります。以降、1970年代後半から、屋上遊園地の衰退が始まりました。新たな設備投資ができず、メンテナンスコストが年々増大してゆく中、遊園地を閉鎖する店舗が相次ぎました。そして、現在残っている屋上遊園地は、全国で7つ程度だそうです。なんとも寂しい限りですが、屋上遊園地の減少により屋上のエンターテインメント性が失われてしまったのかというと、そうではありません。昨今の商業施設の屋上事情は、緑豊かな庭園や飲食スペースが設けられる等、もっぱらリラクゼーションの場として提供されていることが多いようです。また、特に近年の渋谷においては、外国人観光客をターゲットとし、再開発ビルの屋上に、ガラスの壁などを多用した開放感ある超高層展望施設を設けるケースが多く見られます。時代とともに移り変わる屋上、大変興味深いです。高所恐怖症の筆者にとって、渋谷の屋上はややハードルが高いですが。 (祐紀)