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怪談ゆかりの地で感じる江戸の風趣

「東海道四谷怪談」、「番町皿屋敷」、「牡丹灯籠」は、日本三大怪談と称されており、いずれも東京が舞台です。そのうち牡丹灯籠のみが完全なフィクションであり、東海道四谷怪談と番町皿屋敷については、それぞれ物語にまつわる場所が今でもいくつか現存しております。

東海道四谷怪談の「お岩さん」は、誰もが知る幽霊なのではないでしょうか。その因縁の地については、題名からつい四ツ谷駅周辺を思い浮かべてしまいますが、なんと、四谷怪談の四谷とはかつて存在した雑司ヶ谷四谷町(現:豊島区雑司が谷)を指しており、新宿区の四谷ではないそうです。とはいえ新宿区の四谷も四谷怪談と無縁ではなく、物語のモデルとなった田宮伊右衛門さんとお岩さんは、実際には新宿区四谷にある現「於岩稲荷田宮神社」の地で仲睦まじく暮らしていたそうです。一方、「一枚たりな~い」という台詞でお馴染みの番町皿屋敷の舞台は、その名の通り千代田区番町です。五番町に在った青山播磨守主膳の屋敷に奉公していた「お菊さん」が、冤罪を掛けられて非業の死を遂げるというストーリーであり、千代田区九段南四丁目と五番町の境にある坂は、お菊さんが髪をふり乱し、帯をひきずりながら通過したという伝説に基づいて、「帯坂」と名付けられたと言われております。

平和な時代が続き、大衆が「怖さ」を楽しむことが一般的となった江戸時代に、怪談は娯楽の一つとして流行したそうです。上記の他にも、「置いてけ堀」で有名な「本所七不思議」や、小泉八雲の作品「貉(むじな)」に出てくる赤坂の紀伊国坂等、江戸の怪談は当時の地形や街並みに基づいて語られています。当社は9月に東京本社を移転するのですが、新住所は奇しくも新宿区四谷及び千代田区五番町にほど近い麹町です。数々の名作怪談が誕生した江戸の情景に思いを馳せつつ、歴史深い街を少しずつ探索してみたいと思います。(祐紀)