仕組み大変革としてのテックは恐れるに足らず!?
不動産鑑定士 磯部裕幸, CRE, FRICS
日本ヴァリュアーズ株式会社 会長
GeoCities というサイトが一世を風靡したのは94年からの数年間だったろうか。Webサービスを無料で提供することから爆発的に契約数を伸ばしたものだ。今となっては古めかしく聞こえるが、GeoCities上では、いわゆるサブドメインをジャンル別のコミュニティーや街区名で選択できたことから、「不動産=スペースが、ネット上で開発・創設できる時代になった」「この住所(GeoCities上のスペース)は、無料のスケルトン空間を基にそこで発信されるコンテンツそのものの善し悪しによって決定づけられることになり、集客性や収益性だけで評価され、すべての人に開かれたまったく新しいCyber-Fudosanになる」「実在する不動産の価値が、距離や規模や自然環境や行政要因という変数の関数としてあり、かつ量的・場所的な有限性という絶対的な制約の下で成立しているのに対し、サイバー上のスペースは、開発が無限に可能で希少性概念の入り込む余地もなく、従って価値形成要因自体がこれまでとはまったく異なる別物になる」などと勝手に興奮したものだ。しかしその後、自らの書き込みスペースを無料で持てるさまざまなSNSやWeb Hosting サービスが登場し、そのユニークさは薄れ、97年のSoft Bankとの合併、99年のYahooによる買収などのドラスティックな経営シフトがあったものの、2000年にはその役目を終えて解散したのであった。
ところで、世の中の仕組みが今後数年の間に大きく変容すると言われ続ける中、後れをとってはなるまいと、老体に鞭打ってAIやブッロッックチェーンなど、近未来を予測する何冊かの著作に挑戦してみた。しかし、これから起きようとしている大変革で人の営みがどう変わるのかを具体的にイメージするには、今ひとつこちらの予備知識が欠け過ぎていて実感が伴わなかった。そんな中、不動産の世界にもテックの波は怒濤のように押し寄せ人事ではなくなってきた。米国不動産カウンセラー協会(CRE)が毎年公表しているTop 10 Issues Affecting Real Estateの2018-2019版でも、自動運転技術や仮想通貨などを含め、一連のDisruptive Technologyが不動産を含むモノやカネの流れを大きく変えるだけでなく、生活の場である街や住まい方の有り様さえ変えていくことが示唆されている。日本でも動きはここへ来て急を告げてきた。昨年、研究者・有識者・実務家などにより一般社団法人不動産テック協会が設立されたことにも現れているし、本年1月に出版された「不動産テック-巨大産業の破壊者たち」がビジネス書としては希に見る売れ行きだということにも、テックが不動産の世界でいかに緊急課題となっているかが如実に示されているだろう。
しかしながら、同書にアウトサイダーとしてまずは登場し、その後ユニコーンへと変貌していくアメリカの数多くのテック企業の取組み対象が、進化系ではあっても、実は普通の不動産だということに気づいて、何となくほっとしたのであった。仕組みが大転換すれば、生まれる仕事がある反面なくなる仕事があるのも当然のこととはいえ、テックが革命的に提供してくれるのはあくまでも新しい仕組みであり、GeoCitiesで妄想した別次元の空間ではないからだ。